弓道の「打起し(うちおこし)」は、射法八節の第四番です。弓構えで整えた取懸け・手の内・物見を保ちながら、両拳を静かに上げ、次の引分けへつなぎます。
初心者は「腕を高く上げればよい」と考えがちですが、打起しだけを切り離して形を作るものではありません。胴造りを崩さず、肩や胸へ余計な力を集めないことが大切です。
この記事では、主に正面打起しを学ぶ初心者に向けて、打起しの役割、高さの考え方、確認したいポイントを、全日本弓道連盟「射法について」などの公式資料に沿って整理します。所属する流派や指導系統によって方法が異なる場合は、指導者の説明を優先してください。
この記事の要点
- 打起しは、弓構えと引分けをつなぐ射法八節の第四番
- 正面打起しでは、両拳を同じ高さへ静かに上げる
- 公式解説の高さの目安は「額の線よりやや上」
- 腕だけを上げず、胴造り・物見・肩の状態を保つ
- 正面打起しと斜面打起しを自己流で混ぜない
弓道の打起しとは
打起しは、弓構えに続く射法八節の第四段階です。
- 足踏み
- 胴造り
- 弓構え
- 打起し
- 引分け
- 会
- 離れ
- 残心(残身)
全日本弓道連盟は、正面の弓構えから両拳を同じ高さへ静かに上げる動作として打起しを説明しています。両拳を軽くすくい上げるように上げ、その高さは額の線よりやや上で、肩に響かない位置がよいとされています。
大切なのは、打起しを独立した「腕上げ運動」にしないことです。射法八節は八つに区分されていても、動作の間を分離・断絶させず、一つの流れとして行います。
前段階を確認したい方は、弓道の弓構えとは?取懸け・手の内・物見の基本をご覧ください。
打起しが担う3つの役割
| 役割 | 初心者が確認すること |
|---|---|
| 弓構えを引分けへつなぐ | 取懸け・手の内・物見を途中で作り直さない |
| 弓を引き分ける空間を作る | 低すぎる位置から無理に引き下ろさない |
| 射の土台を保つ | 両腕を上げても重心・腰・肩・物見を動かさない |
打起しで新しい姿勢を作るのではなく、胴造りで整えた身体と弓構えの関係を保ったまま、次の段階へ移ると捉えると理解しやすくなります。
正面打起しの基本と高さの目安
両拳を同じ高さへ静かに上げる
正面打起しでは、弓構えの位置から両拳を同じ高さへ上げます。片方の手だけが先に動いたり、左右の拳の高さが大きくずれたりすると、その偏りを引分けへ持ち込みやすくなります。
両腕を完全に固めて同時に動かそうとすると、肩や肘へ力が入りやすくなります。「そろえる」ことと「力で固定する」ことを分けて考えましょう。
高さは額の線よりやや上が公式の目安
全日本弓道連盟の公式解説では、打起しの高さを「額の線よりやや上」としています。一方で、オンラインの公式解説に一律の角度は示されていません。
体格や腕の長さ、弓構えの状態によって見え方は変わります。「必ず45度」などの数字だけで自己判定せず、肩へ響かず、その後に無理なく引分けへ移れる位置を指導者に見てもらってください。
胸や肩へ力を集めない
拳を高くしようとして肩をすくめると、首まわりが詰まり、胴造りで整えた上体も崩れやすくなります。気合を足・腰・丹田に置き、胸や肩へ力を入れないことが大切です。
肩を意図的に強く押し下げるのではなく、呼吸を詰めず、腕を上げても肩の位置が大きく変わらない状態を確認します。
正面打起しと斜面打起しの違い
現代弓道では、正面打起しと斜面打起しの両方が行われています。二つは単なる腕の上げ方の違いではなく、弓構えからの動作や手の内の整え方を含む射法の違いです。
| 方法 | 公式用語辞典で示される概要 |
|---|---|
| 正面打起し | 正面の弓構えから両腕を上へ打起し、大三へ進む方法 |
| 斜面打起し | 斜面の弓構えから左斜め上へ打起こす方法 |
本記事は正面打起しを中心に説明しています。見た目だけを参考にして二つの方法を混ぜず、所属先で教わっている射法を一連の流れとして学んでください。流派の歴史的背景は、弓道の流派とは|代表的な流派と現代における位置付けで整理しています。
初心者が打起しで確認したい6つのポイント
1.胴造りと重心が動いていないか
両腕を上げる反動で、上体が後ろへ反ったり、重心がつま先側・かかと側へ移ったりしていないか確認します。正面や側面から動画を撮る場合は、拳の高さだけでなく身体の中心線も見ましょう。
2.物見が戻ったり顔が傾いたりしていないか
弓が視界へ入ると、弓を目で追って物見が戻ることがあります。弓構えで定めた物見を保ち、頭部や肩が弓と一緒に動かないよう確認します。
3.両拳の高さが大きくずれていないか
左右の拳が同じ高さへ上がっているかを見ます。ただし、拳だけを無理に合わせて手首・肘・肩をねじるのは適切ではありません。差が続くときは、弓構えの位置や胴造りから指導者に確認してもらいます。
4.肩をすくめていないか
「高く上げる」ことを優先しすぎると、肩も一緒に上がりやすくなります。打起し前後の肩の高さ、首まわりの余裕、呼吸のしやすさを確認しましょう。
5.取懸けと手の内を握り直していないか
打起しの途中で右手へ力を足したり、左手で弓を握り直したりすると、弓構えで整えた関係が変わります。特に左手の握り込みが気になる場合は、弓道の手の内の基本も確認してください。
6.打起しで引き始めていないか
正面打起しは、会まで一気に弓を引く段階ではありません。まず両拳を静かに上げ、その後の引分けで大三を経て左右均等に引き分けます。打起しと引分けを分断しない一方、段階の役割も混同しないことが大切です。
打起しで起こりやすい崩れと見直す場所
| 見える状態 | 見直したい場所 |
|---|---|
| 打起しが低く、次で窮屈になる | 弓構えの位置、拳の高さ、肩の力み |
| 高く上げるほど肩も上がる | 胸・肩の力、呼吸、腕だけで上げていないか |
| 左右の拳がそろわない | 弓構え、胴造り、両腕の動き出し |
| 上体が反る・前へ傾く | 足踏み、重心、腰と背中の状態 |
| 物見が戻る | 視線、頭部、肩の向き |
| 大三へ急いで射が途切れる | 呼吸、打起しの収まり、引分けへの移行 |
表の状態は、原因を一つに断定するためのものではありません。同じ見え方でも、体格、弓具、前段階の崩れなど複数の要因が考えられます。実際の修正は、射全体を見られる指導者と行ってください。
打起しを確認する練習方法
徒手で胴造りと肩の動きを確認する
弓を持たずに足踏み・胴造り・物見を整え、両腕をゆっくり上げます。腕を上げる前後で重心、肩、頭部が動いていないかに集中できます。
ゴム弓で射法八節の流れを確認する
全日本弓道連盟は、ゴム弓を射形や一連の動きを確認する練習用具として紹介しています。両拳の高さや肩の力みを確認しやすい一方、実際の弓・弽・矢の関係をそのまま再現するものではありません。
素引きは指導者の管理下で行う
素引きでは矢を番えずに弓を引きます。弦を離すと弓の破損やけがにつながる危険があるため、初心者が一人で行わず、指導者の説明と安全管理のもとで実施してください。
正面と側面の動画を目的別に使う
正面からは左右の拳や肩の高さ、側面からは上体の傾きや打起しの高さを確認しやすくなります。撮影は道場の規則と周囲の同意に従い、動画だけで原因を断定しないようにしましょう。
打起しの練習で守りたい安全
弓矢を扱う練習では、技術より先に安全を確保します。
- 弓具と弦に異常がないか事前に点検する
- 人や物へ弓を向けない
- 実際の弓を使用する練習は、道場と指導者の管理下で行う
- 素引きで弦を離さない
- 違和感や痛みがあるときは中止し、指導者へ相談する
稽古前の確認事項は、弓道の安全対策|事故を防ぐ弓具点検・矢取り・巻藁練習の注意点もあわせてご覧ください。
よくある質問
打起しは45度まで上げればよいですか?
全日本弓道連盟のオンライン解説は、一律の角度ではなく「額の線よりやや上」を高さの目安として示しています。数字だけで合わせず、体格や肩の状態を含めて指導者に確認してもらいましょう。
打起しでは、もう弓を引き始めますか?
正面打起しでは、弓構えから両拳を静かに上げ、その後の引分けで大三を経て左右均等に引き分けます。打起しで会まで引こうとせず、かといって動作を停止させるのでもなく、次の段階へ自然につなぎます。
打起しと大三は同じ段階ですか?
同じではありません。打起しは射法八節の第四番で、大三は正面打起しから引分けへ進む途中に取る状態です。所属先の指導に従って、動作のつながりの中で理解してください。
正面打起しと斜面打起しのどちらが正しいですか?
どちらか一方だけが弓道全体で正しいというものではありません。それぞれに射法の体系があるため、所属先で指導されている方法を優先し、自己流で混ぜないことが大切です。
肩が上がるときは、打起しを低くすべきですか?
高さだけを下げれば解決するとは限りません。弓構え、胴造り、呼吸、腕の動かし方なども関係します。痛みがある場合は練習を中止し、指導者や必要に応じて医療機関へ相談してください。
まとめ|打起しは静かに引分けへつなぐ段階
打起しは、弓構えで整えた弓・身体・的の関係を保ち、引分けへつなぐ射法八節の第四番です。
- 正面打起しでは両拳を同じ高さへ静かに上げる
- 高さは額の線よりやや上を目安にし、角度だけで決めない
- 腕を上げても胴造り・重心・物見を崩さない
- 胸や肩へ余計な力を集めない
- 打起しだけを完成させず、引分けへ一つの流れでつなぐ
打起しで毎回同じ高さを作ることだけを目標にせず、前後の動作と身体全体のつながりを確認しましょう。引分けから会へ続く働きは、弓道の「会」とは?詰合い・伸合いの意味でも解説しています。
参考資料
- 公益財団法人 全日本弓道連盟「射法について」
- 公益財団法人 全日本弓道連盟「上達への道。vol.01」
- 公益財団法人 全日本弓道連盟「上達への道。vol.02」
- 公益財団法人 全日本弓道連盟「弓道用語辞典」
※本記事は2026年8月14日時点で確認できる公式情報を基に作成しています。技術の細部は、所属先の射法と指導者の説明を優先してください。

